2018年12月


「リアル暴挙」


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晩秋にしては風もなく暖かさを感じるある日、

私は久々にこの山の登山道口に立った!


名古屋の方ならフォルムだけでピンときたと思いますが、

アルプスの山小屋を模した喫茶店。

といっても、ここにコーヒーだけを飲みにくる人はいない。


喫茶マウンテンである。

人はここを訪れることを”登山”と呼び、志半ばでリタイアすることを

”遭難”と呼ぶ。


年季の入った看板。

ここには様々な伝説があるが、詳しくは下記の拙著

「獅子は我が子を(シトラスメールマガジン”柑橘系林檎新報”のために著作)」

をご一読いただきたい。


「獅子は我が子を」


  久しぶりに息子と並んで歩いた。いつの間にか随分大きくなった。

 「170cmは越えたか?」

 「うん。まだ後2〜3年は伸びるよね?」

 寂しいような気もするが、追い越して欲しいと、心から願う。

 

  今日こそ、成長した息子の実力を試す時。正直こちらの体調が心配だが、父としてここは

 是非とも成長を見届けねばならぬ。

 車は駐車場に入る。数度来た事のある店構えは全く変わっていない。

 息子にとっては初陣である。しかしその名の全国に轟いているこの店の事は、インターネットと

 いう文明の利器を用いて、十二分なリサーチをしてあるようだ。

 

 「喫茶マウンテン」


  土曜日・お盆・お昼時。まさかと思ったが、すでに数十人の列が出来ていた。

 駐車してある車のナンバー。

 横浜ぁ??宮城ぃ??

 皮つなぎとテント等で完全武装のバイク団。

 富山ぁ??群馬ぁ??

 おいおい、どうなってしまったのだ、この店は。

 まあ平日は観光バスも来ると言うのも、大げさではなかったわけだ。

 店から出てくるお客様は、どちらかと言うと、人間としてのスケールが一回り大きい方が多い。

 うちの息子。背は随分伸びたが、私と違いひょろひょろである。我が家でも一番食が細く、

 とりあえず私のような肥満に悩む遺伝子は受け継いでいないようで、ほっとしているが、

 ここ一番で、男をみせる事ができようか?


  並んでいるお客は、期待に胸を膨らませている感じの人が多いが、やや思い詰めた様な表情の

 方も多い。この登山を一生の記憶に刻むために、一体何百マイルの道程をやって来たのだらう。

 「○○さん」とかカタカナ名前で呼び合っているのは、ひょっとしたら外国の方か?

 「○○氏」とか呼び合っているのは、戦前なら士族階級の末裔なのか?

 さすがに軽装は少なく、チェックのシャツや、ナップザックなどが多いのは登山者としての当然の

 心得であろう。

 「すみません、ここは並び順を紙に書いたりするんですか?」と前の人に聞く。

 「いやー、そういうものは無いみたいですよ。」眼が僅かに泳いでいる。

 装備が完璧なのでベテランと思ったが、案外初心者かも知れない。

 次々に客がやって来るが、半数は列に恐れをなして去って行く。炎天下である。

 家族連れはほとんど諦めるようで、残るのは、男ばかりの2〜3人連れ。そして4〜6人の

 パーティーに1〜2人の女性隊員(科学特捜隊に於ける「フジ隊員」のポジション)が混ざる

 場合もある。


  ガラス扉から見える真正面の席には、アベックが座っている。そこへ、巨大なかき氷が!!

 まさか、ここでデートか??2人で氷一つ食べて、終わりか?それじゃだめだろ。

 神聖なお山にピクニック気分では困る。しかしそれは杞憂であった。そのあとちゃんとスパが。

 まあ一皿だが。胃のキャパシティが比較的小さい女性連れでは仕方が無いだろう。

 (そうとばかりは言えない、驚異的光景を数十分後に他のパーティで沢山見る事になるのだが。)

 待つ事45分。ようやく店内に入る。まあ万博の日立館に比べれば、何でも無い(比較に無理あり)。

 席に着くと、メニューが渡される。

 息子はリサーチ万全だが、かなり悩んでいる。なんと言っても中学生。無謀な計画は遭難を招く。

 私は、この店の標準分量がほぼ判っているが、初めての人は、

 「多いぞ多いぞ」という情報のみが一人歩きし、自分の実力との兼ね合いをはかりかねている。

 テレビで主に紹介される「小倉スパ」「いちごスパ」などは避ける事にした。

 初陣はオーソドックスに行きたい。

 息子はメニューに「ワンコインメニュー」を発見。500円ならある程度量にセーブがかかるのでは

 無いかと推測した訳である。クレバーだと思う(親莫迦)。

 私は「メンタイコピラフ」(700円)、息子は「サラミいりスパ」を選択。


  周りのパーティはようやく登山口にたどり着いてかなりハイになっている。出来あがって次々に

 襲来する巨大メニューに、まず写真撮影。そして完食への途をひたすら辿るなら、本来は寡黙に

 ならざるを得ないはずなのに、なぜか「高歌放吟」という旧い言葉を思い出す。舞い上がる気持ちも

 よく判るが、登山者のマナーは踏み外さないで欲しい。ここは神の宿るお山である。

 多分「味噌煮込みスパ」では無いかと思うが、汁物のメニューを、器を下げてもらう時に

 「汁も残さず食べました。」と言って、店員に「ああそうですか。」とかえされて、がっかりして

 いた客がいた。気の毒だが、そりゃ別に褒めてはくれないだろう。低学年の給食じゃあるまいし。

 この店は真面目に新メニューを次々考え、誠実に普通の店とは違う基準の量の食材を調理している

 だけなのだ。祭りではない。商売はなんでも面白おかしいものではないのだ。


  我々のメニューが来た。

 息子のスパはトマトベース。分量は推測どおり。まあ乾麺で300g位しか無いだろう。

 それでも、ちょっとため息がでていた。

 「喰えよ。手伝わないぞ。」

 「楽勝だよ。」

 獅子は我が子を千尋の谷底に突き落とすと言ふ。この老いたる獅子は既に満身創痍。

 毎日血糖値を上げない薬を手放さず、100g単位の体重計の数字を記録する者ではあるが、

 今日ばかりは粛々と自らの課題に取り組む。この父の姿を見せる事が、無言の激励である。

 思ったよりご飯は多くなかった。2合ぐらいかな?

 息子は正統派登山家のマナー通り黙々と食べている。途中一度だけ、

 「おお!サラミがすげえ!」

 小振りの既に切ってあるタイプのソフトサラミだが、一枚一枚ではない。十数枚が層になって、

 そのまま入っている。この店の神髄を見た瞬間であった。

 テレビで紹介されるこの店のイメージは、メチャクチャなメニュー、メチャクチャな量。という

 イメージであるが、現実は決してそうではない。やや塩からめであるが、最後まで食べ抜く事が

 できる味付けである。

 息子が後で言っていたが、

 「最初は完食出来るかな?と思ったけど、途中からどんどんペースが上がってなんなく完食できる」

 のが不思議である。巨大な焼き飯の皿を前に、頬張りながら目を細め、

 「まいうぅ〜っ!」と心の中で叫ぶ自分が居る。


  生命の根源にある欲望が満足の声を上げる中、完食(私は米の一粒も無い皿を記念撮影(苦笑))。

 ますます店と同化していく調理中のマスターのお姿(銀河鉄道999の車掌さんの中の人は多分この人)

 を拝観しつつ、極めてリーズナブルな料金を払い、達成感を友に外に出る。

 まだ長蛇の列。諦めて店の前で写真撮影して帰る人たち。


 「喫茶マウンテン」 グルマンの聖峰。


 ジュニア標準記録をクリヤーした若き獅子の感想。

 「次はレギュラーメニューを目指す。」

 老いたる獅子の感想。

 「明日の朝、体重計に乗るのが怖い。」


中学生の息子を始めて連れて行った10年以上前のエッセイでありますが、意外に好評を博し

反響もそこそこありました。

今回の同伴者も現在の息子と同年輩の友人。

かたやすでに前期高齢者の私では抗するべくもありませんが、せめて最後に輝く炎を…。


手前が私が頼んだエビクリームピラフ。向こうが友人のハムのピラフです。

あれ?以前より量がない?

これでは普通の店の大盛りと差が?

と思いましたが、皿がでかいことにすぐ気づく。

しかし往年の量からは、30%OFFくらいになっているのでは?

インスタ映え馬鹿が押し寄せて、何品も頼み、大量に残すことを店主が憂えたのかも

しれない。


「大丈夫?」

「無理しないで」

心配そうな二人を尻目に老獅子(豚?)はゆっくり、しかし着実に食べ進む。


完食である。朝から並んだので、まだ10時前。

「予定どおり肉行く?」

「余裕っす」

そう、この日の予定はダブルヘッダーなのである。


いつもの天白公園でオージービーフを焼く。

風除けを買ったおかげで、調理は快調である。

小さめのスキレットとはいえ、肉びっしり。

二人で食えるかって?

えっとこれ一人分です(爆)。


最後の一切れを押し込む。

やはり年齢にして無謀な試みであった!

2018年、一番カロリーを取った1日だと思う(夕食は抜きだとしても)。


この家庭用カセット使用のバーナーと風除けは大変使い勝手がいい。


食後のコーヒーを入れて彼とは解散。

前日用事があったとはいえ、よく大阪から米と肉だけ食いに来てくれたもんだ(笑)。

ありがとう。また遊びましょうね。

ちなみに彼はなんともなかったようですが、私は小さい頃からなぜか牛肉を食べすぎると

おなか壊すことを忘れておりました。

 
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