2010年9月  

 

  題名「隠れ家」 


                         Sanyo W33SA


  名古屋は喫茶店が多い街と言われます。

 独り暮らしや、幼稚園に送った主婦など、町内の喫茶店で、朝食の代わりに

 モーニングを食べながらコーヒーを飲む。というのが、ライフスタイルとして

 存在しました。

 そんな街の喫茶店。学校帰りの少年がナナハンで乗り付け、真面目な委員長

 なんで校則違反を。マスターが親戚とかだったかな?)と

 「海が見たいですね。」

 「じゃあ、ちょっと行きますか?」みたいな会話を楽しむ(そんな漫画みたいな

  カップルはおらんだろう(笑))喫茶店。


  最近は大変少なくなりました。

 店主が老齢化した事が最大の理由と思います。残っていても、なんか入るのが

 怖い様な、常連の巣窟(最近は「スクツ」と読む(笑))と化しています。

 生き残っている店は、モーニングに趣向をこらしたり、数量限定のランチや

 お弁当を出したり。

 それ以外は閉めてしまった店も多くなりました。残るのはチェーン店ばかりで、

 名古屋だと圧倒的に

 「コメダ」な訳です。


  知り合いとだべったりするのも楽しいですが、そこのメニューに惚れて、

 あるいは雰囲気が好きで通う、という喫茶店もありました。

 「学生街の喫茶店」とか、

 「紅茶の美味しい喫茶店~。」とか歌にも歌われましたね。

 そういう想い出に残る様な個性的な店が、名古屋から少なくなっております。


  喫茶店は、オスマントルコとの戦争後、撤退したトルコ軍の食糧に怪しい豆が

 あるのを、イスラム通の人が見つけ、払い下げて貰いウイーンで開業した

 カフェが西洋初と言われます。

 アルコール以外の飲料を飲んで楽しくお喋りすると言うポリシーは新鮮で、

 ヨーロッパ中で、コーヒーや紅茶の喫茶店が流行。

 日本ではカフェの名でお酒も結局出したり、女性の接待が始まり、

 「カフェの女給」というと、売春婦とまでは行かなくても今の

 「キャバクラ嬢」位な位置付けでした。

 

  そのため日本のあくまでも真面目な喫茶店は、

 「純喫茶」と名乗る様になり、私が高校生のとき、乗り換え駅の所に、

 「学生服での入場お断り(うちは真面目なサテンなんだ、コーヒー飲みたきゃ、

 家に帰って私服で来い。の意?)」という店もありました。

 私は、不良ではありませんが、学校の違う彼女と待ち合わせて、よく別の喫茶店に

 行きましたが、あまり長居すると、ウェイトレスが何度も水を入れに来たり、

 最後は昆布茶をくれる(いい習慣と思ったけど、今考えれば「出てけ!」の

 意味だったのだろう(汗))など青少年の育成に熱心なお店が多かったようです。


  京都では、学校の近くの喫茶店は良く行きました。

 「あ、休講だ。」となると、次の講義まで時間を潰すのです。思えばその時間に

 図書館に行けば、人生が違っていたかも知れません。

 そのころ印象に残ったのは、東山通り、蹴上の辺にあった

 「メルコ」という店。籐椅子でアンティックな店内と古い音楽。

 いつかああいう店がやりたい。

 あと、京阪浜大津の駅近くにあった

 「パラドス」という店。一件カウンターバーですが、出すのは紅茶。

 もの凄く多様な紅茶メニューがあり、紅茶と言えばリプトンと日東しか知らな

 かった私が、トワイニングだフォションだ、ダージリンだヌワラエリアだと

 うるさくなった原因です。


  名古屋に戻って30年以上になりますが、なかなか気に入った喫茶店いわば

 「隠れ家」には出会えないでいます。

 結構気に入って通い詰めた店もありましたが、閉店してしまいました。

 今は、漫喫が代わりを果たしていますが、残念な事に隠れ家的喫茶店に必須な、

 「時間を忘れる。」と言う属性が欠けています。時間で課金ですから。


  千種駅で、ちょっと噂を聞いて気になっていたカフェに寄りました。

 駅ビルにある店で、コーヒーも美味しく、ケーキも美味そう(我慢)でしたが、

 なにしろ店内の照明が暗い。英国風パブじゃないかと思う位暗い。

 間接照明があるので、本は読めるのですが、この暗さのせいで、

 2人連れのお客でも、声高に話すということがなく、隠れ家としてはいい

 ロケーションだと思いました。

 この辺りだとやはりコメダに行く事が多いのですが、ここもいいなと思いました

(コーヒー650円からはちょっと痛いけど)。


  話すと言えば、話すのが目的で行く最も顕著な喫茶店は、

 中国風の飲茶のお店です。

 飲茶と言えば、日本では点心(焼売とかお菓子とか)をつまみながらお茶を飲む

 軽食、というイメージが強いですが、文字通りお茶を飲む、という事。そして

 中国茶特有の、

 「小さな急須に何回もお湯をさして飲む。」という飲み方で、

 何時間も親しい友とおしゃべりをする。というのが飲茶です。


  大陸では大きめの蓋付きの湯のみに茶葉を入れ、湯をさして、葉が沈んだら

 上澄みを飲む。と言うのが一般的な飲み方ですが、

 台湾では、戦前から、

 「茶芸」というお茶の楽しみ方が流行し、飲茶を楽しむ人が多いといいます。

 これは日本の商社マンが、煎茶道にヒントを得て始めたものらしいのです。

 長い茶の伝統を持つ中国に、日本の様な作法がない事は不思議ですが、国民性の

 違いでしょう。茶芸も作法というより、美味しく茶を飲む合理的な方法、という

 感じです。


  私も見よう見まねでやってみたのですが、名古屋には中華街もなく、いい茶葉

 も手に入らないので、なかなか続かないのです。

 そもそも名古屋には、本格的な飲茶の店がありません。

 もちろん、軽い中華料理としての点心の店は多く、飲茶を名乗っておりますが、

 茶芸の本格的な出し方のお茶は、まずないです。


  実は、毎年海に行くと言うアリバイだけで海岸へカブで行く途中に、中国茶の

 喫茶店があり、ずっと気になっておりました。

 日曜定休と言う(クリスチャン?)店なので、毎年残念な事に(海はやはり人が

 ワンサカワンサといなきゃね(笑))行けないでいたのですが、先月の終わりに

 海に行った帰りに、まだ閉店していない事を確かめた上、先日平日にやっと

 行って参りました。

 実に4年越しの恋が実った感じです(笑)。


  メニューで銘柄(700円~)を選ぶと、茶台という、上からお湯を掛けても

 平気な箱みたいなもの(欲しいけど、どこ見ても1万以上する)と茶葉と急須、

 湯のみ1セット(香り用と飲む用)、お茶を溜めるピッチャーみたいのを持って

 来ます。それからアルコールランプみたいのに火を付けてガラスの薬缶で湯を

 沸かします。

 大学時代、友達に壊れたコーヒーサイホン※の下の部分を貰い受け、寮の庭で

 湯を沸かして紅茶を楽しんでいたのを思い出しました

 (なんかこっぱずかしい想い出(汗))。


 ※学生下宿の必需品だったサイホンの流行はすでに廃れ、時代はペーパードリップ

  だった。メリタよりカリタが有名だった。サイホンの衰退の原因はフィルターが

  黴びるのと、上の部分が割れ易いからである)



                         Sanyo W33SA


  お茶請けはドライフルーツとカボチャの種が付きますが、点心も一応あります。

 肉系は小龍包みたいな肉まんだけでしたが、さすが美味しいです。後はお菓子系。

 杏仁豆腐が美味しそうでした。後は、外の看板に

 「中華風煮卵」とありましたので、注文しました。お茶は流石に高いですが、

 点心は350円。煮卵は80円とリーズナブル。

 煮卵はあき竹城さんを若くした様な中国人のおねいさんに、作り方を聞きました。

 要するにゆで卵を作り、細かくヒビ割らせて、殻ごと烏龍茶、醤油、八角、酒等を

 入れた水で煮込む、と言うもので、家でやってみましたが、美味く奇麗な編み模様

 が入りません。

 割り方にこつがありそう。茶蛋という庶民の点心らしいです。



                         Sanyo W33SA


  このようなタイプの中国茶喫茶店が広がらない原因は明らかで、客の回転が

 恐ろしく悪いからです。私が行った日は、ほぼ満席でしたが、私より早く帰った

 人は誰もいませんでした。

 元々5煎位平気な中国茶で、本来おしゃべりを楽しむものですからなかなか

 帰りません。途中で点心を頼んだとしても精々一人1500円使ってくれる程度

 でしょう。儲けは知れています。

 余程茶芸の良さを伝道したいと言う人以外は、開業されない方が良いと思います。

 でも本当にゆったりした気分になり、他の席のおしゃべりも気にならず、

 カウンターでリラックスできました。

 今度行く時は、本を持って行って、一冊読了しようと思います

 (嫌な常連がまた一人(笑))。


 ※隠れ家なので、店名、地名は書きません。名古屋近辺でどうしてもお知りになり

  たいかたは、メール下さい。

 
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