ヤドカリの貝殻
 
 
2020年7月
「ギターリハビリ」

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小学校5年生の頃父がギターを買ってきました。その頃はグループサウンズ全盛で
みんなエレキギターに憧れたのですが、父が買ってきたのはクラシックギター
でした。父は新品を買うより古道具屋(まだハードオフとかがなかった時代です)で
掘り出し物を探して買うと言うのを大変好んでいて、今回も中古のギターでした。
製作者署名入りのハンドメイド物で少し小ぶりな大変弾きやすいギターで
おそらくかなり高価なものだったと思いますが、残念ながら表板の一番下の
ところが縦に割れており、そのため古道具屋に売られたものだと思われます。
見よう見まねでギターを弾いているうちに、いつしか自分のものになってしまい
ました。このギターは私が大人になるまでずっと愛用して、ちょっと爪弾いたり
作曲したりするのによく使いました。よく使うだけにいつもケースから出して
その辺に置いてあったために、ある晩酔っ払って電気のついていない部屋で
ギターを踏んで壊してしまった時は、本当に悲しかったです。
その後エレアコ式のクラシックギターも二本ほど買い替えましたが、
結局貧乏になったので手放してしまいました。
手元には大学生の時バイトをして購入したチャキのW-60と言うウエスタンギター
(表題写真)だけが残りましたが、生活に追われてずっとケースに入ったままに
なっていました。鉄の弦が張ってあるフォークギターやウェスタンギターと
呼ばれる楽器は、弦を抑えるのにかなりの握力が必要です。
体を鍛える趣味もなく肉体労働でもない仕事の私は、たまにケースからギターを
取り出しても抑えることができず、悲しい気持ちでまたしまうということが
繰り返されました。
弦だって1セット取り替えるのに1000円以上はかかりますから、めったに
弾かないのにそんな贅沢は許されず悪循環でした。

今年になって定年退職を目前にしていわゆる「定年鬱」症状になった私は
反動の躁状態で
「老後の楽しみ老後の楽しみ」と念仏のように唱えつつ、ハードオフで
ジャンク品のエレキギター(レスポール 平沢唯モデル)を手に入れて、
ちょこちょこ弾いておりましたところ、エレキギター弦の抑えやすさに、
もう一度諦めていたギターをやる気がでて来ました。
ウエスタンギターにエクストラライトと言う一番弱い張力の弦を張り
調弦を一音下げて2フレットにカポタストを嵌めると言うショートスケール化
(これで普通のギターと同じチューニングになる)で再挑戦しましたが、
まだまだ往年の握力は取り戻せず、これからの課題です。

そこでとりあえず抑えやすいクラシックギターからギターリハビリを始めようと
思いました。
実は家にクラシックギターはもう一本あってそれは父の遺品だったのです。
このギターの事は知っていましたがあまり好きではありませんでした。
なんか変なギターなのです。
この父のギターはネックが太く、しかもピックガードまで貼ってあるのです。
ピックガードは、フォークギターやエレキギターでピックを使ってジャカジャカ
弾く時に本体が傷つかないようにつけるプラスチックの板ですが、
指で弾くクラシックギターには不要です。
しかもご丁寧にサウンドホール上部にも。全く好みではありませんでした。
粗大ゴミにもせず、弦も切れて放置していたこのギターを、いずれ
ウエスタンギターが弾ける様になるためのリハビリとしてリフォームして
使おうと考えました。
長年の埃と変色で大変汚くなっており、特にピックガードは元々白だったと
思われますが黄色く変色。
ここは一つ再塗装したいと思いました。

ギターの塗装には二種類あり、一般的なのはラッカー仕上げ。生地を生かして
光沢のある透明な塗料を塗布。白木の上に塗りますので、ギターの場合は
黄色っぽくなります。エレキとかだとさらに色がつくわけですね。
一方比較高価な楽器ではオイルステイン仕上げと言う物があります。
これは船のマストに使われる塗装で亜麻仁油などを丹念に塗り込んで
木材の美しさを際立たせる手法で、生地の色より茶色っぽくなります。
ネットでエレキギターの塗装を一度剥がしてオイルステイン仕上げにしている
記事がありました。今はオイルステイン(風に)仕上げる塗料が市販されている
ようです。そこでホームセンターでこの塗料とサンドペーパーを購入して、
まず塗装剥がしから始めます。ある程度剥がせば、オイルステイン塗料が生地に
染み込む事が分かりました。色は失敗のない濃いウォルナットを選択。
塗ってみると悪くありません。筆の目がついてしまいますが、まあ木目に見える。

錆がいっぱいの糸巻きも取り替えて弦も張り、

いい感じになったのですが、やはりピックガードの黄ばみが気になる。

色々調べてみるとこのサウンドホールを挟んで上下に貼られたピックガードは
決して素人細工ではなく、スペインのフラメンコギターに特有のものらしいのです。
フラメンコギターと言うと小ぶりで鋭い高音の出るイメージがありますが、
合奏のリズム担当だとピックでかき鳴らす弾き方もあります。
この太いネックのギターは太い弦を張って大きな低音が出る伴奏用だった様です。
ピックガードは本来象牙板で現在も白い人工象牙が使われ、黄ばんで来るのも味?
みたいなものかとは思いましたが、やっぱり汚いので表面を削り落とし、

さらにマスキングしてクリアラッカーで艶出し塗装をしてみました。
ところがなんと音が小さくなった!
慌ててもう一度ラッカーを剥がしたところ戻りました。表面の塗装で随分違う
ものです。オイルステイン塗装にするとよく鳴るようになると言われていますが、
ピックガードごときでスポイルしてはまずい。
ネックも少しだけ細く削って中々満足いく結果になりました。

塗料、サンドペーパー、糸巻きで改造費は3000円程かかりました。
名前はスペイン語でチョコレートを意味する
「チョコラテ?(語尾が上がるのが正しい発音(笑))」としました。
夏はこのギターでボサノバを練習しつつ、いつかウエスタンギターが
弾ける様になるまで握力のリハビリに努めたいと思います。

※追記(8月):その後このギターの愛称は、松崎しげるさんの笑顔から
「しげる」になりました(笑)。白い歯が印象的(笑)。

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