ささやか写真館


   2007年9月

               題名「究極のカメラ」


 
                                        Holga 120N

  Appleのページには、MacやiPodを活用しているそれぞれの世界の専門家や有名人の
 インタビューがありますが、プロ用画像編集ソフト「Aperture」を使っているカメラマン達の
 話は、カメラ好きの私には大変勉強になります。最新記事のジョン・スタンメイヤーは
 バリ島をベースに、アジア各地の歴史的事件の写真を撮り続けている社会派フォトグラファー
 ですが、彼が地元のバリ文化を記録するのに使っているのが、「ホルガ」というカメラです。
 このカメラの事は、前にも聞いた事があり、有名なカメラマンの多くがはまっているカメラ
 との事。基本的にプロのカメラマンは最高の機材を使います。特殊な需要でない限り、
 明るいズームレンズの付いた一眼レフ(現在は殆どデジタル)ですね。

  そしてサブカメラというのを別に持ち、写真集のアクセントのページとか仕事とは関係ない
 ライフワークの撮影に使います。サブカメラは本来、メインカメラが故障とか、何かの弾みで
 フィルムに映らなかった時の「抑え」だったので、それなりの性能が要求されました。
 昔は圧倒的にライカ。それから日本製の高級コンパクトカメラ(ミノルタのあれとかリコーの
 あれが有名ですよね)が愛されました。
 ところがデジタルカメラが本格的にプロの現場で使われると、結果がすぐ確認出来るために、
 「抑え」の必要性が薄くなります。サブカメラは任務を解かれ、純粋に趣味の世界になり、
 「正確な写真」ではなく、「面白い写真」が撮れるカメラを、プロは求める様になりました。
 
  このホルガというカメラは、例えば東急ハンズの「バラエティグッズ」コーナーで売って
 いるようなおもちゃです。中国製のこのカメラは、まずその機構のシンプルさにおいて、
 世界でも一二を争うものでしょう。おもちゃというものは、本来子供が使うものですが、
 子供には手に余る「アンチ・フールプルーフ」ぶりです。シャッターはいつでも切れます。
 すなわち、フィルムを巻き上げずにシャッターだけを切れば、簡単に多重撮影のまるで
 心霊写真みたいのが出来てしまいます(これを利用して別売でいろいろへんなフィルター
 が販売されています)。
 蓋をあければ簡単にフィルムはパーになります。
 フィルム巻き上げはストッパーがなく、注意しないと撮影せずに巻いてしまいます
 (私も1枚パーにしました(涙))。
 ピントは目測です。簡単な絵表示により大体の距離を決めます。
 シャッタースピードは1つしかありません。1/125あたりらしいのですが、機構は非常に
 やぐいヒゲバネだけで、あきれる程簡単です。精密時計のようなライカと同じカメラとは
 とても思えません。
 どうも隙間があるらしく、光が侵入し、へんな露光があります。
 持つと、笑う程軽く、これはおもちゃだなと思いますが、フィルムはブローニーです。
 なんで?と思いますが、中国等旧共産圏では、35mmフィルムよりブローニーの方が手に
 入りやすい地方もあったらしいと聞いています。
 ブローニーは中判カメラで使うフィルムで、120と倍の240がありますが、ホルガは機構上
 120しか使えません。パッケージには6×6と6×4.5のフレームが入っており、6×6だと
 12枚撮れます。6×6は正方形の写真が撮れ、これは慣れると面白いフォーマットで、
 そして35mmのフィルムに比べると巨大です。
 パトローネと呼ばれる金属製ケースに入っている35mmフィルムと違い、ブローニーは原則
 裸ですので、露光しない様に取り扱いには細心の注意が必要です。
 デジカメが普及するまでは、プロの使うものでした。お父さんが使っていた二眼レフや
 高級なハッセルブラッド、国産のマミヤやペンタックスの645、ブロニカなどが有名で、
 どの機材も重いので、いずれにせよ、あまり使った方は少ないと思います。
 画面がでかいだけあって、写真には独特の品格があり、引き延ばしても乱れません。
 つまり、こんなフィルムをつかうホルガは
 「ジェット燃料で走る子供用ゴーカート」みたいな変なカメラです。

  実際にホルガを入手して使ってみました。ハンズにあるのはフラッシュ付きで、私はこの
 カメラは昼の、程よい明るさの時に使うものだと思いますので、最も安いフラッシュ無しの
 機種を選びました。輸入元の鈴木商店というところの通販を利用しました。
 4100円。送料500円。120のカラーフィルムは300円位で買えます。ポジは露光がシビアなので
 ネガでいいのです。ネガならば現像も525円ですみます(キタムラ調べ)。Cubeと一緒に
 エプソンのGT8600というスキャナーが来ており、透過原稿も読めるのでブローニー用の
 フレームを使ってMacに取り込むだけです。
 このカメラのレンズは2種類あり、新しい方はガラスレンズ。オリジナルはなんと
 プラスチックレンスです。そして世界のプロを魅了しているのは、このプラスチックの
 方なんです。さっそく風景を写してみました。
 ふーん、プラスチックレンズって、こんな感じか。
 プラスチックレンズと言えば、例の「使い捨てカメラ(レンズ付きフィルムが正しい名称)」
 ですが、あの写りとは少し違う。中判ブローニーなせいもあるのか、ちゃんとピントは
 来ています。しかし、なんだかトローッとした絵になります。やっぱり光の屈折や透過性が
 違うからかも知れません。
 「ホルガの味」として多くのブログ等で紹介されている、
 「周辺光量不足による、鍵穴をのぞく様な描画」については、別に驚きませんでした。
 昔の広角系のレンズにはよくあった事で、こんな欠点を有り難がっちゃいけない。
 光量が落ちてない部分だけでも充分35mmより大きいので、気になる方は後でトリミング
 すればいいのです。
 描写は、とにかくシャープさを要求される現代のレンズとは一線も百線も画すもので、
 今まで使ってきたレンズでは、エルマー35mmという古いライカのレンズとか、コダックの
 小さなカメラに付いていた、エクターという小径のレンズに似ています。
 日本のメーカーは絶対作らない絵です。

  カメラ好きのおっさん(オレダヨ)が喜びそうなカメラですが、LOMOみたいに流行だけで
 若い子が使うには少し敷居が高いかもしれません。軽すぎるのでぶれない様にシャッターを
 押すのは、結構難しいです。
 その点は、単三電池を2個内蔵するフラッシュタイプを在庫しているハンズは賢いのかも
 知れないです。重量がそれだけ増しますので。しかもこのフラッシュ、カラータイプの
 方ですが、なんともヘンチクな写真が撮れるらしいです。
 ブローニー120フィルムの代りに、後ろにポラロイドを取り付けるキットも1万なんぼで
 出ていますが、ここまでやると病気ですね(笑)。

   
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