ささやか写真館


   2007年4月

               題名「あこがれの地」

 
                                 Tokina AF19-35/3.5-4.5

  黒人の子供が街角の楽器店のショーウィンドをじっと見つめる。
 来る日も来る日も見つめる。
 ガラスの向こうにはピカピカのトランペット。
 そんなCMがあった。
 なんのCMか忘れてしまったけれど、誰に聞いても知ってるし、
 ギャグマンガの題材にもよく使われる。

  私にも憧れの地があった。
 別に、敷居が高すぎて入れなかった訳ではない。
 この店の前を通りかかった時、いつも昼なので閉まっていただけ。
 たまに夜に通っても、こちらが飲酒できない運転状態だったり。
 いつも、ため息とともに通り過ぎた。

  ある日わざわざ地下鉄に乗って、ここに来た。
 敷居が高い。
 いや、ホントに高くなっているの。
 自動でない木の引き戸をがらがら開けた。

  一瞬目の前が真っ暗になった。
 本当に暗い照明。
 カウンターとテーブル席がひとつだけ。
 若い男が、カウンターの向こうに立っていて
 黙々と仕事をしていた。

  カウンターに座って、さあ何を頼もうか。
 ビールも良さそうだったが、せっかくバーテンのいるバーだ。
 「カクテルのメニューを」
 「すみません。メニューないんですよ。おすきなものをどうぞ。」
 どうぞと言われても、カクテルなんか知らないし。

  まあ少しでも身体にいいようにと、ブラディメアリを頼んだ。
 バーテンは氷を丹念に削る。
 まるでシャンデリアのクリスタルのような、氷に、
 赤い液体を満たし。
   
  黙って入ってきてビールを注文し、10分ほどで飲み干して、
 500円置いて出ていった男がいた。
 馬車馬の様に働いて、週末の一瞬をあんな風に過ごすのもいいな。

  私の憧れの地は、こうしてやすらぎの地になりましたとさ。

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