キョンシーSの
     ピンポンダッシュ!


  ★020 楽しい「絵空事」スイングガールズ

  近くのシネマコンプレックスは、最終上映時間が1000円だと言うことが
 わかった。これなら、少し食費を切りつめれば月1回ぐらいは行けるかも
 しれない。次は、12月になって落ち着いてから「ハウル」かな?

  で、今回はロングランを続けている「スイングガールズ」を見に行った。
 「まDVDでもいいか?」と思ったが、映画館のいい音で聞きたかったので。
 10時10分スタート、深夜0時終了という、とんでもない時間帯だった。
 9時半頃チケットを買って、ミスドでコーヒーとドーナツを食べてしまった。
 これでは、月1は無理かな?結局一番小さな150円のだけど、ポップコーンも
 買ってしまったし。

  前置きが長くなったが、作品の方は面白かった。エンターテインメントとして
 とても完成度が高く、観客もそれを楽しみにして来たというのがありあり判る。
 もちろん少しでも管楽器をやってみたことのある人にとっては、そう簡単に
 あんなに上達する訳が無い!という突っ込みは当然だろう。
 その辺の苦労が少しも描かれていないことに、ちょっと不満はある。
 音楽が上達するのには、いかに苦労が必要か?という事を知っていれば、
 この映画が「絵空事」である事がわかる。
 しかしそれを描いてしまうと、楽しさがスポイルされてしまう。
 そこで、主役級4人が楽器を買うのに、いかに苦労したかというストーリーに
 集約させている。
 この映画の楽しさは、夏休みの補習で知り合った無気力少女達が、ジャズの
 ビッグバンドを始めてしまうと言うサクセスストーリーの朗らかさにある。
 これは実話だから、重みがある。もちろん現実は、もっと大変だったろうけど。
 今風の女子高生と、東北の地方都市という方言の穏やかさが、観客をとても
 リラックスさせる。風景も最高に綺麗。主演は「てるてる家族」秋子ちゃん
 だから、演技はとても自然でいい。映画としてはとてもいいのである。
 脇役も白石美帆の大根っぽさは、まあ仕方ないとして、この監督の作品には
 欠かせない竹中直人が、すごくいいし、不良っぽい兄弟とか、楽器屋の店員とか
 ちょっとした脇役も、とてもいいと思った。(谷啓も)
 何かと言えば、自己中、無気力と言われ、何をやっているのか判らないと批判
 される現代の若者にも、熱くなる時がある。というのが、ほっとさせる内容で
 ある。大人は、自分たちの頃と変わってないなと安心する。
  この映画の絵空事を現実につなぎ止めているのが、この映画の出演者が、
 実際に全くの素人から、合宿までして特訓を重ね、演奏を全て自分たちで
 こなしていることである。一人一人の技術がどうの、音がどうのと言えば
 それは、いろいろあるだろう。しかし「スイング」という事をとても大切に
 している演奏だと思う。各地の学校の吹奏楽部には、もっと綺麗に上手に
 吹く子は沢山いるだろうが、この演奏は心地いい。テレビにも出演して、
 実際に演奏していたが、聞いていて楽しいのである、悲壮感がない。
 ビッグバンドの生演奏は、かなり気持ちいい。
 シャワーを浴びているような快感がある。
 聞いている方も楽しいが、演奏するのは、もっと楽しいだろう。

  この作品の良さはしっかりと準備された「絵空事」の楽しさだと思う。
 周到な準備とリハーサルで楽しい「絵空事」を作り上げていた
 「8時だよ!全員集合」の世界に似たものがある。
 でも、あの頃の僕たちは、長さんたちは楽しく適当にやっていると思っていた。
 あの番組1本作るのにどれだけ大変な苦労が必要か、は判らなかった。
 スイングガールズを見る観客達は、実話の少女達や、映画の俳優達の血のにじむ
 様な苦労を充分知っていながら、それでも絵空事としてそれを楽しんでいる。
 「青春もの」とか「根性もの」という描き方をサラリと捨てて、自分たちが
 楽しいことを第一に置いて、努力を全面に押し出さない。
 そのへんの脳天気さが、気楽なエンターテインメントになっている。真面目な
 人には嫌がられるかも知れない。そういう人は、レンタルではなく商品DVD
 に、恐らく添付されるだろうメイキングやインタビューDVDを見れば、納得
 かもしれない。そういう楽しみ方もありである。うんDVD買いたいな。これ。

 サクセスストーリーには違いないのだが、結末は「全国大会で優勝」みたいな
 晴れがましいものではない。初めての舞台で、せいいっぱい楽しく、かっこいい
 演奏ができたぜ!という達成感だけでさわやかに終わっている。
 そういう意味では、この作品は「天使にラブソングを2」の延長にあるかも
 しれない。でもあの作品より、もっと努力を押し出さないお気楽な演出なのだ。
 今ちょっと思ったけれど、「セロ弾きののゴーシュ」みたいな味わいがある。

 来年の春には、各地の学校で吹奏楽部に入部希望者続出かもしれない。
 入れば現実はあんなに甘くない事が判るだろうが、「現実がそんなに甘くない」
 事は承知の上で、やってみたいと思うだけの分別が今の若者にはある。
 なんか頼もしくて・悲しいが、そういう賢さを今の子達は持っている気がする。
 諦めるのも早いけどね。

 タイトルロールの最後に、お上のお墨付きが水戸黄門の印籠の様に出るが、
 どうなんかなあ?管理教育とは、最も遠い所にある様な気がするが。