キョンシーSの
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   ★015 「東京湾景」動機は不純だが(連載コラム)

  最終回を迎えて、原作の力がドラマに勝ってしまった感じがある。主人公の2人が兄妹で
 あるかどうかと言う、大きなテーマが現れ、日本のTVドラマ史上初めてとりあげられた
 在日韓国・朝鮮人の問題は、ちょっと霞んだ感がある。
 基本的には、このドラマは周囲の反対など、様々な障害を乗り越えて、愛を貫くという、
 古典的なラブストーリーの形式を取っている。恋敵で、そのままでは絶対にヒロインが
 結婚せざるを得なくなる(親も賛成の)婚約者が、「君が本当に好きなのは僕じゃない。」
 とか、「僕が冷静でいられる間に、もう行ってくれ。」などと男らしい態度を見せる。
 石坂浩二のお父さんも、実に立派な人であることが最期に判って、メデタシメデタシ。
 美しいストーリーで、生々しい現実をオブラートにくるんだ作品になったが、これを機会に
 現実をもっときちっと描いた作品も、ゴールデンタイムに放送して欲しい。
 今の十代には、ひょっとしたら、海峡など存在しないかもしれないし。
 結論としては、このドラマが設定として用意した世界は、どう考えても「韓流」とは全く
 関係ないのではないか?と言うことである。「韓流」って結局何?「オレ流」と同じぐらい
 わからん。

  第2回、第3回と見て、石坂浩二のポジションが、どうなのかと思う。この在日2世の
 父親は、スピーチを頼まれて、民族のプライドを讃え、アイデンティティを鼓舞するが、
 同時に出席しなさいと言われたにも関わらず、仕事で出席しない娘を嘆いて見せ
 でもそれは、「日本の一流企業に勤めているからで、私達の世代には考えられない事でした。」
 と、時代の流れが変わって言っており、若い世代を締め付けるべきではないと理解を示す。
 主人公美香は「お父さんはうちの波平さんなんだ」と泣き出す。波平像が浅いと思うが。
 頑固そうだけど、本当は全部わかってるという意味で波平を使ってはだめ。戦前の封建的父親像
 を徹底的に破壊するために長谷川町子先生が作り上げた戦略的キャラが波平。
 頑固親父だがまぬけ。原作では全編を通じて「パパ」と呼ばれている。石坂にはまぬけは
 背負えまい。同じ声ならダンブルドア先生だよな。全部わかってるのは。
 主人公2人のラブストーリーはびくともせずにすすむ。美しい台本。きちっとすえられた
 在日3世、美香の叫び。受け止める和田の静かな男らしさ。個と個の愛情には国境はないという
 純愛の一本の幹が昇っていく。
 こっちとは関係なく、世間的な展開も満載。石坂がどんなに理解をしめす父でも、家の破滅の
 前では無力だ。先回予測した以上のシンドロームが石坂を襲う。
 事業の失敗。ヨン様似の公一の会社の援助がなければ再建は不可能。つまり美香は公一の
 所へ嫁にいかねば、家が救えない。「金色夜叉」のテーマ、近松の心中ものと言ってもいい。
 はっきりと「金のためにあなたは息子の嫁にならなければならない。」とすごむ李麗仙。
 ちょっと怖すぎる。野際陽子か加賀マリ子あたりでどうだろう?李麗仙には「マトリックス」の
 予言者のような役どころがいいとおもうが。
 2人の純愛と在日の問題や「金がないのは首がないのと同じや」問題を交え、ドラマは
 まるでベンジャミンの木のように巻き付きながら高みに登っていく。
 さあ、日本人の偏見を助長させないためには、弘一君をもちょっと何とかしないとあかんぜ。
 絶対日本人のぼんぼんも同じ事やると思うが、「お父さんの会社を援助することと、君が好き
 と言うことは、関係ない。」と言いながら、いきなりダイヤの婚約指輪。マザコン丸出し。
 普通のドラマなら、「ほーらだから金持ちは」が「だから韓国人は」になるぞ。だって今の
 ところ悪い日本人いないんだもの、このドラマ。がんばれ弘一。2人の純愛を知って悄然と
 身を引くのだ。あるいは、よりドライなソニンが「お姉ちゃんが行かないならあたしがいく」
 という手もあるが(それにしてもソニン、筋肉鍛えすぎだって)。
 まだまだ、このベンジャミンはよじれるだろう。(7/26)

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  今フジテレビ系月9の「東京湾景」を見終わったところ。このドラマは始まる前に朝日新聞にも
 特集されたので、期待してみていた。
 このドラマは制作発表当時から、はっきりとした2つの潜在的敵意にさらされていた。
 製作側の動機が驚くべき幼稚な言葉で語られたからである。
 「「冬のソナタ」を始めとする「韓流」のブームの中で、この企画が生まれた。」
 この動機はないだろ。「冬のソナタ」などの韓国ドラマ・映画のブームと、在日韓国・朝鮮人の
 文化(それも一世・二世・三世以降とそれぞれ違う)とは全然違う。この時点で崔洋一監督
 (「月はどっちに出ている」)や、つかこうへい氏(「娘に語る祖国」)、あるいは韓国人と
 在日韓国・朝鮮人の問題を提起し続けてきた関川夏央氏(「海峡を超えたホームラン」)などが
 非常にシビアに問題にしてきた在日の問題を、トレンディに描いてしまうのか?
 もう一つの敵は、原作「東京湾景」の熱心な読者である。実は私はまだ読んでいないので
 (図書館に予約を入れようとは思う。ドラマが終了する頃には順番が来るだろう。)港湾労働者と
 倉庫の街と、日本の情報発信地お台場の湾岸副都心が、狭い入り江を挟んで存在する「真逆の世界」
 にすむ、男女の恋愛ストーリー。ハーレクインロマンスになりそうな所を、素晴らしい筆力で
 描いており、熱狂的な読者を得ている小説らしいが、彼らにとっては、「なぜヒロインが在日?」
 という疑問があるらしい。単なる流行で設定を変えるのは許さないぞと言う厳しい目で、見ている
 人々がいる。
 ドラマはこの2つの厳しい視聴者を納得させねばならない。ある意味ではこのドラマのプロデュー
 サー、脚本家、演出家は、それぞれの仕事生命をかけていると言っていい。善意に解釈すれば、
 「いつかやらなければ」と思っていたテーマが、「韓流ブーム」と「原作の説得力」の2つで
 ついにゴールデンタイム、しかも最も視聴率を稼ぐ「フジの月9」に登場したのである。
 コツコツと在日の青春を描いた佳作では、独立系の映画にはなっても、月9のスポンサーを
 納得させるだけの力はないのである。メインのスポンサーはトヨタであり、ロッテではない。
 あえて軽薄な「ブームだから」という呪で、時代をねじ伏せた感がある。でも、出来が悪ければ
 所詮流行でしかとらえていないと、2つの人々群から激しい非難を浴びるだろう。
 そういう意味では、あえて軽薄な動機で、制作者は背水の陣に自らを追い込んだと言えるだろう。
 全編に流れる韓国ミュージックは、全く関係ないこの「韓流ブーム」のアリバイ工作に過ぎない。
 在日一世にとっては「アリラン」。二世には「イムジン川」。そして三世以降には、全く日本の
 流行音楽が、アイデンティティを持てる音楽だろうから。
  さて第1回目を見ての感想は、設定をどばっと出しすぎて、「プライド」のような嫌な予感。
 仲間由紀江は普段のせりふは悪くないが、泣いたり笑ったりの演技がとてつもなく下手。あと
 ナレーションもダメだ。前の週まで菅野美穂の天才的演技(手放し(笑))を見てきて、いきなり
 これは辛かった。彼女は沖縄出身と聞いている。沖縄出身の芸能人は多いが、沖縄県民には、
 在日ほどではないにしろ、「怨」はあるはずだ。彼女の世代は、安室というスーパースター以後
 だったので、そういう感触は無いのかも知れないが、戦後「ヤマト」に働きにでたウチナンチュー
 は差別を受けて来たし、なにより戦争中は「一億玉砕」の言葉を信じて裏切られた歴史がある。
 そういう、激しい想いを込めた演技を彼女に期待してはいけないのだろうか?
 一般的日本人には何国人であろうが、「国立大出の医者」という良縁(ブランド)に反対する
 程の父の気持ちは理解できず、この情けない医者も、彼女が在日と判っていながら、両方の親から
 反対されてびびって別れる。というのが、説得力なさすぎ(一般的日本人男性にとってとりあえず
 仲間由紀江と結婚できれば、国籍は問わないだろう)。明らかに第1回は説明不足だ。このへんの
 説得力が弱いと、在日韓国・朝鮮人ををテーマにすえた意味が無くなってしまう。
 ただ主人公の男性、和田総宏の存在感は圧倒的である。野武士のようだが決して粗野でない書道家
 を目指す肉体労働者を好演。こいつなら、確かに海峡を超えそう。兄貴役の哀川翔もいい。
  さて第2回目だが、大分印象が良かった。おそらく原作のもつ力が、ドラマをぐいぐいと
 押し上げている感じ。仲間の母の悲恋は初回にも語られているが、日記に綴られていく文章と
 彼女に訪れる運命が、重なっていく不思議さ(和田の父までも?)。在日社会を代表する配役も
 いい。ヨン様風求婚者はご愛敬としても、その母の李麗仙の存在感。差別と植民地支配の歴史を
 生き抜いた一世の優しいおばあちゃん(一回しか会ったことなく亡くなったけど、大好きだった
 友人のおばあちゃんを思い出して、涙が出た)。そして芸能界でただ一人最初からカミングアウト・
 デビューで、多くのファンの(私も大好き)共感を得た、妹役のソニン。
 ただ石坂浩二の演技がまだ定まっていない気がする。友人の受け売りだが、「在日で成功した人は、
 在日のネットワークの中で仕事を回している場合が多いので、子供達を日本人と結婚させることは、
 その子自身が在日社会から弾かれるだけでなく、親の事業にも大きなダメージを与えてしまう」
 のがついこの間まで当たり前だった社会である。成功者であればあるほど、その気風は残っている。
 石坂演じる在日二世は(ましてホテル業)、日韓の歴史的背景からくる被差別意識から、日本人
 との結婚に反対する頑固な家父長像だけでなく、自分たちの生活のためにも、日本人との結婚に
 怯える父の像があってもいいのではないか?
 もう一つ、在日の夫と日本人の妻が経営する韓国料理店で、ヨン様風求婚者が「最近は日本人と
 結婚する人も増えたよね。」というと、仲間が「そうですね。」と他人行儀に返事をするが、
 その後に、「いいわね。あなたたちは日本人の娘さんと結婚できて。」とやり返して欲しかった。
 まだその傾向は儒教思想(男尊女卑)の強い韓国にはあるらしい。(7/12)