キョンシーSの
     ピンポンダッシュ!


   ★014 悲惨な同窓会(映画「ハリーポッターとアズガバンの囚人」)


  決して裕福ではないので、年にそう何回も映画館に行くことはない。「スターウォーズ」とか
 まあ大画面で見た方が面白い映画を、見たい見たいと思っていても、なかなか行けない。
 後はジブリの作品とか。そんなものだろうか。年2回行けば多い方だ。
 そんな中で「ハリーポッター」の前2作は、まずまず見に行ってよかったと思える作品だった。
 もちろん、本を読まずに映画館に行った人の中には、「面白くなかった」という声も少なく
 なかった。本の持つ独特の雰囲気を取り去ってしまうと、案外子供だましの様に見えてしまう
 のかもしれない。
 しかし、そんな中で、前2作は映画にしかできない映像表現を盛り込んで、読者達にはもちろん
 本を読んでいない人にも、まずまずの面白さを与えたと思う。第1作ではクイディッチの試合の
 シーンだけがよく引き合いに出されるが、私はハリーの家に学校からのフクロウ便が殺到する
 冒頭のシーンがよかった。後は、やっぱり学校内の描き込みに感心した。第2作では最後の
 「秘密の部屋」での死闘が圧巻だが、私にはウィズりー家の様子や、何という名前だっけ、
 魔法使い達の横町の描き込みが凄いと思った。あと「嘆きのマートル」。蜘蛛と自動車も
 良かった。これは、監督自身が原作が大好きで、原作の世界を緻密に再現することに情熱を
 注いでいたから、ああいう作品になったのだと思う。
  さて、第3作であるが、監督が替わって、どうもそういう製作側の熱意が伝わってこない。
 簡単に言うと、「安い」のである。冒頭の幽霊バスのシーンは、確かに映画製作者には魅力的な
 シーンである。派手なCGを使って「掴みはOK!」と思ったのではないか?私にはあのシーンは
 要らないと思う。まあ1分でいい。今まで日本で出版された4本の原作で、この3作目が一番好き
 という人が多い(私もその一人)それは1、2作で、ハリー達の背景が十分に染みわたった所で、
 縦糸としての本格的な謎解きのカタルシスが展開されたからである。それと友情の物語である。
 アズガバンの脱獄者でハリーの両親を殺したヴォルデモートを手引きしたと言われる犯罪者の
 シリウス・ブラックとルーピン先生、ハリーの父親との間の友情がこの原作の大切な横糸である。
 そして最後のハッピーエンドにいたるSF的な展開も見事だった。この縦糸と横糸の織りなす
 素晴らしいタペストリーが、この原作のキモなのである。ところが、このどちらも映画では
 描き切れていない。原作のストーリーを忠実に追った映画にすることは、ひょっとすると原作者の
 意志なのかもしれない。しかし考えて欲しい。ハリーポッターの原作は、巻を追うごとに分厚く
 なっていくのである。第4作など、日本語版のあまりの分厚さに、原作者と翻訳者が、
 「もし落として子供の足の上に落ちたら・・・」と本気で心配して上下2巻にしたという程に
 なっている。1作目で何とか出来た、忠実な原作のなぞりと、映画表現の良さととの両立が、
 2作目では結構きついものになっていた。前監督の天才が、かろうじてそれを支え、原作にない
 魅力的なスネイプ先生のイメージまで生み出した。そういえば第3作では、なぜスネイプが執拗に
 ハリーをいじめるのに結局はハリーの最大の守護者(は、ダンブルドアか。まあ、意味が違うが
 やはりこれからのシリーズで、スネイプの存在は大きくなるばかりである。原作者に映画が影響を
 与えた例だろう)なのかが暗示されるが、映画版では全く無視されている。主演の3人が、
 あまりにも早く大きくなりすぎたので、新監督以下スタッフが、やる気をなくしてしまったのでは
 ないか・・・。高校生になった3人が懐かしげに小学校の同窓会にやってきた感じが出てしまって
 いるのだ。私が監督なら、縦糸と横糸以外の余分なものは省く。ニンバス2000が折れてしまった
 エピソードや、ファイヤーボルト(もっと造形的に優美な箒を想像していたので、ちょっと
 がっかりした。アメリカの箒会社が作った様なデザインだったから。カーチスの水上機ではなく、
 ポルコロッソの美しい機体をファイヤーボルトに重ねて読んでいた)をハリーが贈られるシーンも
 ばっさり切ってもいいと思った。4人の仲間の友情と裏切りの横糸。そして本当の犯人が、次第に
 明らかになる縦糸の流れ。そして「時間」のトリック。ヒッチコックばりの映画が出来たはず
 なのに。残念でしょうがない。熱心な読者には必見の映画である。あたかも同窓会に来たように、
 過去に感動して読んだ原作を、懐かしく思い出すことが出来る。DVDになったら(コンビニで
 1500円で買える様になったら)また何度も見て細かい部分で、いいところを見つける事が出来る
 かもしれない。でも1回勝負の映画館上映作としてはどうか?少なくとも私はこれは映画とは
 言えないと思う。金返して欲しい。まあハリーポッターファンクラブ会費としては500円だな、
 この映画。
 唯一の救いはエマ・ワトソンの美しさだが、彼女が女らしくなった事を強調するような衣装設定は
 どうかと思う。かつての巨乳アイドル、アグネス・チャン(ラムではないよ)のようにさらしを
 巻けとは言わないが、第4作では、ハーマイオニーの美しさにハリーとロンが唖然とする
 パーティーシーンがあるのだから、それまでは子供っぽくさせなければダメだよ。