ベルーシの減り靴カメラ

 5.あこがれのカメラに出会う

 ある日、自転車で町をながしていましたら、昔からの写真屋さんがありました
私は、こういう店を見かけると、まず覗いてみることにしています
掘り出し物があるかも知れないからです
こういう店の場合
 1.息子の代になり、23分写真屋になってしまっている
 2.跡継ぎが居なくて、やる気を失い、めぼしい物も処分して、かろうじて
  同時プリントの受付と、たまに来る証明書写真で喰っている
 3.結構研究熱心で、アサヒカメラ広告欄とか、インターネットまでも研究して
  在庫に加え廃業した旧知の同業者からも仕入れて中古店をやっている
 4.年はとっても自分はカメラ店主=営業写真館主だという明確なポリシーがあり
  棚には、若かりしころ活躍した愛機が大切にしまってあり、気に入った客には
  分けてくれる
こんなパターンに分かれます(重複もありますが)
1の場合は、もう中古カメラは無いでしょう。こんなにブームになる前に
がらくたとして二束三文で処分されています
ライカ・ハッセル等の舶来カメラが残っている場合もあるが、「父の形見」とか
「店の看板がわり」で売ってくれることはないでしょう
2の場合は、処分する気力も無くなってしまって、棚に置き去りのものも
ありますが、レンズがかびていたり、作動不良になっているものが
多いと思います。また中古カメラがブームだと言うことだけはご存じなので
本当は高価格のカメラなのにだまされて安く買い叩かれているのではないかと
警戒され、まず売って下さることはありません
3の場合、大変動向に詳しいので、驚くようなお値打ち品に出ることはありません
しかし、雑誌に掲載したり、デパートで中古市を開催するような大手は高すぎる
という、客には嬉しい志をお持ちで、幾分安く手に入ります
それと、その機種が発売当時には自分の中での評価が高くないものは、安い
値付けになります
4の場合は、カメラ店主=写真館主というものは、戦後から60年代頃までは
今で言う最先端ハイテク職種だったわけで、今電脳街をうろついているヲタク
層は昔はみんなカメラマニアかオーディオマニアだったわけで、そういう
時代をリードしていた栄光がまとわり残っています
「オートフォーカスでは本当のピントは得られない(しかし、悲しいかな名人も
ピント合わせだけは年と共に衰えます)」「最近のカメラは誰が撮っても同じに
写るのではないか」などという言葉が出てきます
余談ですが、こういうお店には、たいていショーウィンドーに往年の名機と並んで
新生フォクトレンダーのベッサLが飾ってあります。このカメラが全国のカメラ
ファンにもまして、カメラ店主の熱い支持を受けた久しぶりのメカカメラと
いうことでしょうね
このようにこだわり大きいカメラのプロですが、彼の往年の愛機はもう使うこと
がありません。ですから、棚にびっしりクラシック・カメラが有る店では、たとえ
それが売り物でなくても、手放してくださることがあります

さて、件の店は、4のパターンと見えました
しかし、店にはいるとお年寄りの女性が一人
「これはあかんかな?」と思いました
ご主人に先立たれて、店を守っている方の場合、遺品はよほど信用して
いただかないと譲っていただくのは、難しいのです
しかし、幸いご主人はご存命でした。今日はご不在とのこと
しかも棚の中には
「あ、トプコンのRE2とRE200も色違いで2台づつ!」
奥様に恐る恐る「譲っていただける物なのでしょうか?」と聞きましたら
「さあねえ、何しろ全部主人の私物ですから」という返事
ここで押しすぎると嫌われると思い、この日はそこで退却
翌日は、幸いご主人がいらっしゃったので、トプコン談義ひとしきり・・・
他のカメラの話とか、撮影旅行のスライドを見せていただいたり、
時間を過ごします
カメラ関係の話は決して退屈ではないし、勉強になります
とにかくピントが合っていなければ駄目という事をこの年代の方々からは
学ぶことが出来ます。オートフォーカスカメラで初めて撮ったという写真も、
さすがプロだなあと思いました
こちらも、例のルサールで撮った大須の写真など見せて、写真好きのおじさんと
して好感を持っていただけるようにしました
30分ぐらいして
「トプコン欲しいんですけどねえ・・・」と言うと、案外すぐ譲っていただける
ことになりました
RE2なら、最近修理したところなので、その代金でいいとおっしゃるのです
58mmF1.8も付けて下さいました

トプコンの最終機、RE200もいいなと思いましたが、実はカメラとしての格は
桁違いにRE2の方が上ですし(その上にさらに「REスーパー」というのがありますが
「あれは高すぎて、買えんかった」と言っておられました)
本当に丁寧に使ってあるので、感謝していただくことにしました
手に持った感触もファインダーの見えも、さすがです
「また、手放す気になるかもしれんで、またちょくちょく来てください」と
おっしゃるので
「はい、もうトプコンなら本当に何台でも欲しいです」と答えました
最後にご主人は私と同じ考えをおっしゃいました
「私の代からあんたの代に渡しますから、大切にしてちょうだい」
私も、子供の代にカメラをなんとか伝えたいと思っていることを言いました
トプコンは戦後日本のクラフトマンシップの良心だと思います

先日、東京でカメラ店によったとき、トプコン35Sというレンジファインダーの
カメラを買いました
REスーパーとライカLマウントトプコールは大変人気があり値段も高いのですが
他の機種はそれほどでもありません
件の店に持っていくと「ああ懐かしいなあ、これ若いときよく使ったもんです
これはレンズが良くてねえ…」と目を細めておられました

35Sを買った時、「100mm位のREトプコールを欲しいんだけど、また連絡下さい」
と、言って帰ったら、先日電話が来て、入ったとのこと
すっかり忘れていたのですが、送って貰いました
まだはっきりテストしていないのですが、ポートレートにはきっと
威力を発揮すると思います
同時代のニッコールにくらべると、色が美しいのがトプコールの特徴です
  

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