ナゴヤからの手紙
 
2015年2月
 
「3年越しの伝説」
 
 
名古屋市昭和区八事。
”はちじ”でも、”やじ”でも”はちごと”でもなく、やごと。
戦前は閑静な隠棲地、また妾宅も多かったらしい。
トヨタ自動車の祖、豊田喜一郎が晩年居を構えた事でも知られます。
愛知県愛知郡御器所村(秀吉の正妻ねねさんの在所ですな)の東端に位置し、
そこから東が我らの天白村なわけです。
 
尾張徳川家が帰依した八事山興正寺(真言宗別格本山)があり、東山動物園と
並んで、名古屋市営路面鉄道(市電)の終点でもありました。
名古屋の小学校では、遠足の地でもあり、天白村の境界に広がる天白渓という
湿地帯でボートを楽しんだり、一日の手軽な行楽地でありました。
今はありませんが、ここには
「国鉄八事山本球場」があり、第一回の選抜中学野球大会(旧制中学は5年制
なので、現在の高校野球)が開催された事で知られています。
山本権三郎という篤志家が造った球場で、朝日新聞の夏の大会に伍して、
春の選抜を大阪毎日新聞が開催するとき、
「関西勢が強いのは、地元の利があるためではないか?」という声があった
ため、あえて名古屋で開催したとか。
 
その後は、甲子園球場が造られたため春夏とも甲子園大会になりました。
この八事には名物が二つあり、ひとつは
「八事の蝶々」竹ヒゴと和紙で作り、カラフルに彩色された蝶が針金の先に
付けられ、子供が持って遊ぶ玩具です。
 
      (資料画像)
 
そして、知る人もほとんどいなくなったのが、
「八事八寸にんじん」
小学生の頃、付近は一面の畑で、野菜も沢山栽培されていましたが、この
にんじんは、郷土史の本でしか知りませんでした。
戦後は生産性のいい外来種に圧倒されたようですね。
大正8年に天白村の農家が、東京の種苗会社から購入したにんじんが、
この地の土壌にあって、大変甘みの強いにんじんとして、評判になったものの
様です。ですから、伝統野菜と言えるかどうか。まあ100年ほどの歴史はあると
いえます。
正確にはこの時点で八事は名古屋市に編入されているので、本当は
”天白にんじん”と言った方が正しいのでしょうが、お参りや行楽の際に、
買い求めた人々から評判が広がった様で、その点では
「あの八事の…」という事でしょうね。有名な八事の料亭
「八勝館」でも供されたのでしょう。
八寸は約24cmですから、にんじんとしては長い。
「あの八事の立派な甘い人参」という、ブランド野菜であったようです。
 
天白人として50有数年。私は一度もこのこのにんじんを食した事がありません
でした。子供の事はご多分に漏れず、にんじん嫌いでしたし、近所の方に
わけて貰った野菜も、とくに八事にんじんだとは聞いた事はありませんでした
ところが数年前に、名古屋市農業センターでこの伝統野菜が栽培されている
事を知り、なんとか手に入れたいと思うようになりました。
農業センターは、名古屋コーチンの飼育でも有名ですが、細々と地元だけで
栽培されていた(自分の家の食用位の規模しかなかった)この野菜の種を
入手し、j年月をかけて出荷出来るまでに栽培試験しています。
 
これまでの2年間、農業センターに行くたびに売店を覗くのですが、すでに
旬を過ぎ、もう店頭にありませんでした。
唯一アイスクリーム売店で、このにんじんを配合したジェラートを頂いただけ
でした。
そもそもこの季節、私が農業センターに行くのは、だいたい
「しだれ梅祭り」の季節(3月上旬)だったのです。
このしだれ梅も、職員の努力で多くの品種が見事に開花して、期間中は
大変多くの見物客が詰めかけます。
 
で、今年はこの2月ににんじんを探しにいく事にした訳です。
まだ寒いので、幼児を遊ばせるお母さん。という微笑ましい風景も望めません
が(ロリコンでも、ママ狙いでもないぞ(汗))、とにかくにんじんを求めて、
この間の休日に行ってきました。
急に歯が痛くなったので、午前中は10年ぶり位に歯医者へ。
しばらく通う事になりそうです。
自転車で平針に戻り、駅前のピアゴの、マクドの後に先日開店した
「すがきや」で初めてラーメンを。
 
 
例によって、しばらく食べてから気がついて写した(笑)。
すがきやラーメンはナゴヤ人のソールフード。
ラーメン食べたい。と言うのとは、別の欲求で食べたくなります。
税込み300円とは高くなったものですが、まだまだありがたい価格。
かつて原の松坂屋ストア(現マックスバリュー)にあったすがきや(今の
野菜売り場の辺り)で、当時東海学園高校生だった伊藤みどりさんが、
ラーメンを食べてるのを目撃したのも懐かしい思い出。
 
さて、お腹もいっぱいになったところで、農業センターに向かいます。
まずは売店に。
 
 
あったあった。ただ八事八寸にんじんの表示の上に別の表示がかぶっており、
目立たない。もしかして品種が違う?
レジの人に確認して、間違いなく八事八寸と言われたので、購入しました。
他のお客は、この有名ブラントにさほどこだわりがない(無名?(汗))様で、
色の濃い、京野菜のブランドにんじんに心を奪われている模様。
八寸というよりは少し小振りです。もしかして長さの事でなく、由来は
懐石の八寸(終頃に出る酒の肴)の事?
 
 
安っ!
家に帰って、皮を剥いて丸かじりしましたが、まあスーパーで売っているのに
比べたら、甘みはかなり強いが、甘みに特化した新品種ほどではない。
子供の頃ににんじん嫌いになる原因である、独特の香りはそれほど強くない。
まあ、いまの品種は殆どあの香りがしない(消費者に嫌われるからだと思うが
同時に栄養価も下がっているらしい)。
この辺が、天白の土壌に合う。ということなのかな?
天白は赤土なんですけどね。
 
寒かったので、売店で焼き芋を購入。
紅なんとか(紅あずまじゃなかった。紅の下に紙を貼ってあった)もあって
安かったけど、種子島の安納芋があったので、そっちを。
ローソン100で売ってる紅あずまと安納芋との価格差はなかったので、安納芋を
120円/100gだったかな?やっぱ安い。
もちろん一番小さいのをと所望。
 
 
甘いわ。やっぱり。寒い2月は焼き芋ですね。
 
とかいいながら、結局八事八寸にんじんのジェラートも食べてしまう、
意志薄弱なわたくしでした。
寒いと、震えながら食べるジェラートは、格別でした。
まあビニールハウス状の休憩所はあるんだけどね。