ナゴヤからの手紙
 
2015年7月
 
「背徳の美味」
 
 
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今年の夏は、今までにもまして体力の消耗が激しく、本当に命の灯火が
尽きるのではないかとさえ思わされます。
若い頃から、風邪を引いたりすると独り焼肉に行ったりして、
病でやつれる。どころか、太ってしまう有様ですが、糖尿的にはいいわけも
なく、暴飲暴食は戒めておりました。
 
しかし、夏バテに対する歴史的背景を鑑みるに、また恒例の夏行事消化の中に
「夏の味覚」が一つもない事を考慮すれば、ここは一つ、かの
平賀源内先生のお知恵を借りねばならぬと思う訳であります。
すなわち、あるとき江戸の鰻屋集いて源内先生宅を訪れ、
「鰻はどうも真夏には、さっぱりいけません。先生どうかお知恵を」と頭を
さげる。冷房もない時代、真っ赤な炭火を起こして焼き上げた鰻を熱々の
ご飯に載せた鰻丼など、誰が真夏に食べたいものか。そうめんとかしか
食べたくない。夏の爽やか新作メニュー
「夏野菜と冷製鰻のカルパッチョ。う巻のテリーヌ添え」とか、当代きっての
奇人洋学者に期待したのかもしれない。
ところが先生おもむろに戸板にくっきりと墨書なさる。曰く、
「本日土用丑の日」
半信半疑で鰻屋が、店先に看板を掲げると、たちまち人だかり。
「お、おうやっぱり江戸っ子は、土用丑の日にゃ鰻だぜ」
「あたぼうよ、俺ゃガキの頃から土用丑は鰻と決めてんだ」
等、知ったかをいうもの続出。
 
ちょっとハイソな知ったかの中には、
「古来真夏は鰻じゃ。かの万葉集 巻十六にも
”石麻呂にわれもの申す夏痩せに良しというものぞ鰻捕り食せ(むなぎ
とりめせ)” という大伴家持が吉田石麻呂の夏痩せを見て歌った歌がある」
などと、博識をブレンドして補強してくれるものだから、すっかり土用丑に
鰻を食すのは当たり前になったという。
これが、日本史上二大食品マーケティング戦略成功例として、長くコンサル
業界の好例となったわけですね(ちなみにもう一つは、言うまでもなく
”Marryのバレンタインチョコレート戦略”である)。
 
というわけで、吉野家やすき家の花園薫的うな丼(YAWARA!の登場人物で、
頭頂部のみ髪の毛がある、極端なモヒカン)ではなく、もうご飯が見えない
程の、ヅラ過剰だろっ!て言う程のはみ出し鰻丼がたべたいっ!
でもそんなの、ナゴヤで喰ったら3000円以上だ。
鰻の産卵地がついに明らかになったにも拘らず、卵からの鰻養殖研究は
遅々として進まず、稚魚のシラス乱獲により、鰻価格は年々高騰。
という訳で、ここは地元通の先達に相談。
知立弘法参道に昼間限定で格安で鰻丼を提供する店があるという。
 
さっそくその
「旭屋」さんに行ってみました。
知立市の遍照院は真言宗の名刹で、弘法大師空海が自ら開山したと言われる
由緒正しいお寺。
「弘法さん」と言われる縁日には、市が立って賑わうという門前町に
これまた由緒正しい鰻屋があります。
まず遠景
 
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おお!これは期待出来そう。
近所にはもっと立派な構えの鰻屋もありますが、なんか店構えがシック。
さらに近づいてみる。
 
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いいねいいね。老舗の店構えと、ランチで勝負するやる気の両立。
プライド高いだけの店は駄目だと思います。
名古屋にも、客を仕切りたがる最低の自称老舗は多いです。
 
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円頓寺辺りの大衆食堂のよう。
さてオドロキのランチメニューがこれ
 
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今だけ〜。とか1本丸ごと〜。とか、高校生の孫娘がきっとアイデア出して
いるのでしょう(笑)。
有名な一色町の鰻(養殖場として、地元では豊川、浜松と並んで名高い)を
1本丸ごとって、安いスーパーでも1980円(税抜)コースですがな。
ご飯に載って、お新香、汁(これらは本当におまけ的(汗))ついて、
2000円(税抜)とか、どんだけ〜っ!と私も返す(笑)。
当日は限定を逃さぬため、11時開店のまえに行きましたので、
「本日終了」出ています。
平日だったので、並ぶ程もなく店内に。テーブルと座敷という典型的な
食堂スタイル。頑固そうな店主が仕込みをしています。
 
焼きたてだけあって、ぱりぱりで美味しい。
関東風の蒸してから焼く鰻は、料理としては完成度が高いと思いますが、
地元びいきか、直焼きの関西風の方が、
「鰻喰ったぞー」というワイルドな満足感があります。
ここのは器が平たいタイプなので、鰻がはみ出したりはしていませんが、
本当に堪能いたしました。
タレも典型的な名古屋風あまからで、地元民には親しんだ味。
ご飯も少なめでありがたかったです(多分大盛+100円が普通の鰻丼の米量)。
2000円と言えば、私の食費3日分ですが、来年も夏の初めの行事として
定着させようと思います。
ごっつぁんでした。
 
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さて以上が、食べログ的感想でしたが(笑)。
今度はクックパッド的に(笑)。
 
日常では鰻は滅多に食卓に上がる事もなく、せいぜい値引きになったパックを
使って鰻かま風(炊きあがったご飯に、細切りの鰻とタレをぶち込んで、
しばらく保温で蒸らす)をする程度。これとて予算的には結構贅沢です。
前にテレビで、豆腐と鰻のタレと海苔を使って、精進ものの偽鰻蒲焼きを作る
というのをみました。
 
京都府宇治市の万福寺。豆の品種にもなっている隠元和尚が17世紀に開山した
黄檗宗の本山ですが、臨済宗、曹洞宗が武家の帰依を得て、日本風な禅宗に
変化したのに対して、明朝の様式を濃く残した禅宗寺院です。
座禅と、質素な生活。厳しい規則は他の禅宗と同じですが、特徴は月に数度
全員で大皿の様々なごちそうを頂く事。
この食卓を囲む事が重要な教義とされている点です。
とはいえ、仏僧ですから肉や魚は食べられない。
そこで、英知を絞って植物性素材で、あたかも肉や魚であるかのような
多彩な料理を作り上げる。この長年の情熱が作り上げた「普茶料理」は
やがて、懐石料理を経て、日本料理の源流として大きな柱になるわけですね。
この寺の門前にある有名な
「白雲庵」で普茶料理をいただいた事がありますが、
大豆か小麦のタンパクを使った、見た目も味も、鰻の蒲焼きとしか思えない
料理を食べました。
この辺は本物を食べた人にしか作れない料理なので、
得度して僧になる前の味覚の記憶の元に作り上げたのでしょうねえ。
執念とは凄いものだ。
 
そこまでは作れませんが(当たり前)、豆腐を材料に、やってみました。
問い合えず固い豆腐が必要。
重しで水を出す方法(深皿に豆腐を置き、その豆腐の空パックに水を満たして
載せ、半日程冷蔵庫で放置でOK)もありますが、今回はより簡便に焼き豆腐。
三枚にスライスして、短冊にきる。
 
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で、タレ・胡麻油を塗って両面オーブンで焼き、海苔を載せてさらに
タレ付けて焼く。
 
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まあ、こんな感じです。
 
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美味しかったですが、やっぱり食感が田楽なんですよね(汗)。
以前”ためしてガッテン!”で、冷めた鰻を甦らせる秘策として、
「油を敷いたフライパンで焼く!」と言うのがありましたが、
例えば、スケソウダラの切り身なんかをごま油で焼いて、海苔載せたら?
とか、いっそすり身を成形して、ちょっと蒸してから焼いたら?
とか、試してみたくなりました。
 
鰻の味って、まずはタレの味。
それから鰻の脂が焼ける風味。
それから白身の味ですから、なんとかごまかせないか?
と妄想する今日この頃です。